不動産売却の基礎知識

任意売却の基礎知識と流れを解説|7つの要件とよくある質問

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住宅ローンの返済ができなくて困っていませんか

住宅ローンを返せる範囲で借りたとしても、病気や事故、環境の変化などで支払いが難しくなってはいませんか。住宅ローンの返済に困った場合、任意売却という手段があります。これは自宅が競売にかけられてしまう前自分自身で売却を進め、その売却額でローンを返済するというものです。

一見すると所有者にとって有利な手段に思えますが、実行するためには様々な手続きが必要です。短期間で任意売却を成功させるには、自分自身で積極的に動く必要があります。ここでは任意売却の基本知識と任意売却を行う際にどのような流れで手続きを行えばよいか、段階的に解説します。

任意売却を行うための要件

任意売却の流れを解説する前に、まず知っておいてほしいことがあります。任意売却を行うためには、クリアしなくてはならない7つの条件があります。

任意売却を行うための条件

・任意売却をすることに対し、銀行など住宅ローンを貸した債権者に同意してもらっていること
・税金の滞納などで、家財道具が差し押さえられていないこと
・売却活動に充てられる時間が十分にあること
・市場価値のある売れる物件であること
・共有者の同意が得られていること(例:夫婦なら双方の同意)
・連帯保証人から同意が得られていること
・決められた額以上の修繕費積立金および管理費を滞納していないこと

次のように、最初は返済を継続することを目指します。最も重要なのが、一番上の任意売却をすることに対する債権者(銀行などローンを貸している側)の同意です。任意売却は債権者へローン残高を一括で返済するための手段ですが、通常の返済スケジュールをこなせていた人が行えるものではありません。

  • 返済が難しくなる
  • リスケジュール(条件変更)で返済額を変えてもらう
  • それでも返済が難しくなる
  • 任意売却を申し出る

リスケジュール(条件変更)を行っても返済が滞ってしまい1円も返すことができなくなると、滞納という状態になります。この滞納が1~2ヵ月を超えて発生すると、債権者側も任意売却の申し出を受けてくれる可能性が出てきます。しかし合意が得られない場合、任意売却を行うことはできません

任意売却が完了するまでの期間

任意売却の手続きが全て完了する期間は、およそ3~6ヵ月と言われています。しかしこの期間は、あくまでも目安であることに注意しましょう。任意売却は特有の手続きこそあるものの、それ以外は通常の不動産売買と同様の手続きを行います。

普通の売却でも売れにくい、次のような特徴がある物件は要注意です。

  • 駅から遠い、騒音があるなど人気の低い立地にある
  • 設備面など何かしらデメリットがある
  • 築年数が10年以上経過している

また競売の対象物件として公開され、入札がスタートするそれ以降は任意売却を認めてもらえなくなるため、それを見越した期間が必要です。少なくとも競売の相談を持ち掛けられる前、ローン返済を滞納し始めた頃には任意売却について相談をし、今後について考える時期と言えます。

任意売却を進める時の流れ

要件がクリアできるようなら、任意売却を進めていくことができます。実際に任意売却を依頼する場合の流れを見ていきましょう。

任意売却の依頼先を決めて相談に行く

もし1円も返せないほど困窮していたり、他の借金がかさんで債務整理が必要だったりする場合は、専門家である任意売却が得意な不動産会社や弁護士、司法書士にまず相談することをおすすめします。また全日本任意売却支援協会など、任意売却に関する相談先は多くあるので、使いやすいところへ相談しましょう。

特に要件がクリアできるか分からない人や、離婚を控えているなど条件が複雑な人ほど、専門家の知識が必要です。また不動産会社によっては、弁護士と連携して相談に乗ってくれる場所もあります。状況を詳しく説明するために、次のような情報を提供しましょう。

  • 任意売却をしたい理由
  • 今現在借りている住宅ローン残高や返済状況、返済先
  • 住宅ローン以外の借金の残高や返済状況
  • 住宅や生活の状況

不動産査定を行い媒介契約を結ぶ

要件が達成できそうであれば、物件の査定をして売却方法や今後のプランを相談します。査定額がローン残高より高いか低いかで、任意売却のプランが大きく変わるためです。

  • 査定額がローン残高より高い:アンダーローン=返済のめどが立つ
  • 査定額がローン残高より低い:オーバーローン=任意売却してもローン返済義務が残る

返済のめどが立つアンダーローンの場合は、任意売却を認めてもらえる確率も成功する確率も高いです。もしオーバーローンであれば、任意売却を無理に進めるより、競売の方が後々の生活にとって負担が少ないこともあります。不動産会社や弁護士など専門家に詳しく相談しましょう。

不動産会社と結ぶ不動産仲介のための契約は、専任媒介契約がおすすめです。1社としか契約できないものの、契約から7日以内にレインズ・マーケット・インフォメーションという全国規模の不動産会社間ネットワークに掲載する法的義務があります。

また自分で依頼者を見つけることもでき、その際は仲介手数料が不要です。同じくレインズに登録してもらえる契約に専属専任媒介契約がありますが、こちらは自分で依頼者を見つけた場合も仲介手数料がかかります。

債権者に任意売却の申し入れを行う

債権者との交渉を行う人は、依頼した不動産会社の担当者です。自分自身が債権者側とやり取りをすることは、まずありません。しかし任意売却に慣れた不動産会社でも、債権者側に同意してもらうのに困難な場合があります。

それは住宅ローンを借りている先が1社だけではない時です。複数の会社から借りている場合、抵当権を設定した時間に応じて、一番抵当権者、二番抵当権者と優先順位がつきます。競売はこの優先順位に応じて金額が配分されますが、任意売却の配分は当事者の話し合いで決まります。

第一抵当権者 第二抵当権者
競売のルール ・優先順位あり
・回収できる可能性が高い
・優先順位は二番目
・1円も回収できないことがある
任意売却のルール ・優先順位がない
・話し合い次第で全額回収できないこともある
・話し合い次第で回収の可能性がある

このように、競売だったら返済がなかったかもしれない二番抵当権者や三番抵当権者にとって、任意売却は少しでもお金を回収するチャンスです。しかし競売なら残高を回収できた可能性が高い第一抵当権側にとっては、回収できる額が減ってしまいます。

抵当権者それぞれの意見を聞きながら、調整することが大切です。

不動産の販売活動を開始する

不動産会社を無事選び終わり、契約が済んだ時点で販売活動が開始されます。この時活躍するのが、レインズ(レインズ・マーケット・インフォメーション)です。全国の不動産会社が情報にアクセスできるネットワークで、家の売買における情報源として広く活用されています。

他にも、家の情報をまとめたチラシやネットへの広告掲載が行われます。家のことが詳しく分かる充実した宣伝にするためにも、次のような書類を媒介契約時に不動産会社へ提出しておくと便利です。

媒介契約時に不動産会社に提出しておくとよい書類

・不動産取得時の契約書

・重要事項説明書

・地籍測量図および境界確認図

・間取り図や付帯設備の説明書

・購入時にもらったパンフレット

希望者が現れれば、不動産会社から内覧の案内が行われます。内覧は希望者が家の中を実際に見学し、購入したいかどうかをより具体的に判断するためのものです。希望者の気持ちに立ち、どんな家の中なら気に入ってもらえそうかを考えつつ、ある程度の掃除や工夫をしておきましょう。

水回りやキッチン、玄関といったよく見られる箇所をしっかり清掃し、部屋を換気して空気を入れ替え、消臭しておくと生活感が和らぎます。また、太陽光やライトで部屋を明るく見せて、少しでも家が綺麗で広く見える状態にしておきましょう。

購入希望者との売買契約を締結する

購入希望者とやり取りをして、売却金額や売却期日など細かな条件に同意しあえても、すぐに売買契約に移ることはありません。通常の売却では値引きの決定権は売主つまり家の持ち主にありますが、任意売却の値引き決定権は債権者側(銀行など)にあります。

購入希望者側にとって任意売却物件の購入は不利な条件が多く、値引きを要求される可能性が非常に高いのが特徴です。任意売却はあくまでも残高の返済の手段であり、債権者側にとって値引きに応じるということは回収額が少なくなってしまう要因のため、時に認めないこともあります。

そのため売却金額の配分表を債権者側に提出して同意を取り付けた上で、購入希望者との売買契約が締結されます。希望者がいたからといって、すぐに売買契約が締結されない可能性があることは覚えておきましょう。

売買金額の決済と債権者への清算が行われる

決済日が来たら、購入希望者と家を売る側の人、債権者全員、金融機関、司法書士、不動産会社の担当者など、関係者全員が同席して決済手続きを行います。売却金額が購入希望者から渡されたら、物件を引き渡し、先に決めた売却金額の配分表にしたがって債権者側に住宅ローンを返済します。

またローンの残高以外にも、任意売却を担当してくれた不動産会社への仲介手数料や、司法書士・弁護士への費用精算も必要です。契約書類の専門家である司法書士は抵当権抹消書類を債権者から受け取り、次の購入者に所有権を移転させる手続きを行います。

すべて終了したら、任意売却完了です。

任意売却を行う時に必要な費用

任意売却の売却そのものにおける費用は、基本的に売却金額で賄われます。諸費用の負担をしなくて済むため、売却依頼者にとっては嬉しい仕組みです。一般的に当てはまるもの、自己負担しなくてはならない費用について解説します。

現金で負担する必要がない費用

現金で負担しない、ということは、任意売却を希望する人にとって現金を持ち出す負担がかからないということになります。基本的には、家を売却した際の代金から支払う費用です。かかる費用と目安の金額や計算式、ポイントを以下の表にまとめました。

費用 費用目安 ポイント
不動産売買仲介手数料 売却価格×3%+6万円+消費税 左の式を元に法的に金額上限が決まっているので、不当に高くないか確認する
抵当権等の抹消費用 1~2万円 司法書士へ支払う費用
引っ越し費用 10~30万円 債権者が認めてくれれば、債権者が売却金の一部を費用として認めてくれる
マンションの場合、滞納している管理費・修繕費 滞納金による 駐車場や駐輪場の代金滞納は、依頼者側が支払うのが原則
その他費用 債権者が認めた範囲による 債権者が「任意売却に必要な経費である」と判断した場合は、実費負担がなくなる

その他費用や引っ越し費用は債権者とのやり取りで決まるため、任意売却時の交渉で大きく変わります。不動産会社にどのくらいなら控除費用として認めてもらえそうか、今までの滞納金など詳しい情報を提供して相談していきましょう。

現金で負担する必要がある費用

債権者が認めてくれない場合や、現金で支払わなくてはいけない費用、金額的に小額なので認められない費用について、下記表にまとめました。注目してほしいのは、引っ越し費用です。

費用 費用目安 ポイント
住民票や印鑑証明書などを取得する費用 数千円前後 書類郵送費用も含めて、任意売却依頼者が負担
相談や契約に赴くための交通費 使用範囲による ガソリン代や電車、バスの代金など
引っ越し費用 引っ越し費用の足りなかった分による 不足分もしくは控除が認められなかった場合
その他 収入印紙(数千円~1万円)
管理費など使用料金の滞納(滞納による)
任意売却の担当者に「現金で負担する範囲」を確認する

先ほど引越し費用は、現金で負担する必要がない費用と解説しました。しかし債権者の好意で控除してくれるため、時として認めてもらえないことがあるのです。近年はオーバーローンになってしまうような家も多く、引っ越し費用は必ずもらえるものと期待しない方がいいでしょう。

任意売却についてのよくある質問

ここまで読んでくださった方の中には、何かしら疑問を感じている人もいるかもしれません。最後に、任意売却をしようと悩む人がよく思い当たる疑問・質問について解説します。

住宅ローン滞納後は何か月で競売になるか

住宅ローンの滞納後、競売にかけられるまでは10ヶ月~1年ほどの期間がかかります。期間中の手続きの進み方は、次のような形が一般的です。

  • 住宅ローンの滞納が3~6ヵ月になる
  • 3ヵ月目に個人信用情報機関にブラックリスト登録される
  • 住宅ローンを分割支払いできなくなる
  • 競売の申し立てが行われる
  • 競売開始決定通知が届く
  • 裁判所の執行官により自宅の調査が行われる
  • 競売入札の開始

一見すると長く見えますが、一般的な物件の売却より購入希望者側にデメリットの多い任意売却物件は、売れにくい傾向にあります。また、入札が開始される前までに任意売却が完了しないと、それ以降は任意売却を受け付けてもらえないことがほとんどです。

少なくとも、住宅ローンを滞納し始めてから8ヵ月を超えないうちに、早めに任意売却の手続きなど相談を開始しておきましょう。

任意売却後に残ったローンはどうなるか

任意売却後、残ったローンの支払いは継続します。しかし任意売却に同意してくれた債権者(銀行など)は経済状況などを考慮したうえで、毎月支払いできる返済額への変更などに応じてくれます。また、日常生活を脅かす強硬手段は取られないため、安心してください。

しかしローン残った額があまりにも多い場合は、状況や残高、今後の予定を見合わせて、自己破産を選択する人もいます。その人の状況に応じ、残ったローンへの対応を決めることが大切です。

任意売却成立後の家にはいつまで住めるのか

退去までの準備期間は、任意売却が成立し引き渡しが完了するまでのおよそ1ヵ月ほどです。物件を買いたい人との交渉によって、期間を延ばしてもらうこともできます。たとえば子供の卒業に合わせて引っ越したいなど、要望を出すことも可能です。

また引っ越し先がどうしても見つからず退去日を延ばしたい場合も、買いたい人と仲介業者に早めに相談することで対応してもらえる場合もあります。任意売却完了前に大急ぎで引っ越さなくてはならない、というわけではありませんが、猶予内に引っ越しができるようにしましょう。

任意売却を依頼する業者の選び方は

任意売却を得意とする、と宣伝しつつも、実際はそうではない不動産会社があるのは確かです。法的な問題も多い任意売却は多くの専門家の協力が必要になりますが、モラルのない不動産会社に依頼してしまうと時間だけが過ぎてしまう可能性があります。

通常の売却では査定依頼を複数の会社に依頼しますが、任意売却が得意な不動産会社を3~4社選んで査定依頼をし、その中から選んだ方が時間も短縮できます。次のようなポイントも合わせて、不動産会社を選びましょう。

  • 不動産の査定が相場に合う適切なものである
  • 主体的に債務問題の解決に当たっている弁護士がいる
  • 不動産売買の専門家がいるか(例:宅地建物取引主任者、税理士)
  • 任意売却でどんな成果をあげたか

査定を受けると、ある程度の売却額が分かるだけでなく、他に比べて売却額が高い不動産会社が見つかる場合もあります。不明点や査定の根拠を聞いたうえで、売却価格や売却スケジュールを確認しましょう。内容に納得ができない、担当者が信頼できないような場合は、無理な契約はおすすめしません。

またローンの返済相談に乗ってくれる協会(全国住宅ローン救済・任意売却支援協会など)もあるため、何から手を付けたらよいか分からない場合は、利用してみましょう。

おすすめの一括査定サイト3選

サイト名 利用者数 対象エリア 提携会社数 同時依頼数
イエウール 1,000万人 全国 1,700社 6件
イエイ 400万人以上 全国 1,700社以上 6件
リビンマッチ 440万人 全国 1,400社 6件

イエウール:全国1,700社以上に対応

地方・地域密着型の中小規模不動産業者にも対応しているので、都市部以外に所在しているマンションや一戸建てなどの不動産を売却したい人におすすめです。

利用者数 1,000万人
対象エリア 全国
提携会社数 1,700社
同時依頼数 6社
取引件数 非公開
顧客満足度 98%
運営会社 株式会社Speee (Speee, Inc.)

サイト内では一戸建てや土地など、物件の種類別に売却手順の説明も掲載されています。しつこい勧誘があったなど、評判の悪い不動産会社は登録から外されているので安心です。

イエイ:お断り代行サービスを提供

大手不動産会社だけでなく、地域に密着した地方に強い不動産会社への査定も一括で依頼できます。

利用者数 400万人以上
対象エリア 全国
提携会社数 1,700社
同時依頼数 6件
取引件数 1,000件以上
顧客満足度 97%
運営会社 セカイエ株式会社

都心部だけでなく、地方の物件を売却したい人にもおすすめです。また、査定を依頼した不動産会社からの営業連絡を断りたい際に、代わりに断ってくれる「お断り代行」サービスがあるため、営業電話を断りにくい人におすすめです。

なお、依頼先の不動産会社は自分で選べる仕組みとなっています。

リビンマッチ:利用したいサイト第1位

都道府県別に、このサイトに登録している不動産会社の情報をあらかじめ調べることができ、その中から売却査定実績の多い不動産会社を選べることが特徴です。

利用者数 440万人
対象エリア 全国
提携会社数 1,400社
同時依頼数 6件
取引件数 14万件(年間)
顧客満足度 98%
運営会社 リビン・テクノロジーズ株式会社

全国展開しているような大手の不動産業者ではなく、どちらかと言えば地域に密着した中小規模の不動産会社の登録が多いので、相続などによる地方の不動産の売却を考えている人におすすめです。

優秀な任意売却の業者を見つけてローン問題を解決しよう

短期決戦で任意売却を成功させるには、任意売却に強い不動産会社や専門家を味方につけるのが一番です。しかし、相談しないと誰からも気が付いてもらえません。すぐに家が取り上げられることはないため、もしローンを滞納してしまっても、まずは相談から始めましょう。

そして大切な自宅を少しでも高く売るために、査定サイトを積極的に活用しましょう。相場や売却額が分かれば、競売を選んだ方が良い、任意売却を利用してローンを少しずつ返す方向に切り替えるなど、今後の対策の幅も広がります。

一括査定サイトは利用費用も掛からず、不動産会社でも相談・査定までは無料であることがほとんどです。複数の会社に依頼して、適正価格を知った上で、落ち着いて行動していきましょう。

また、一括査定サイトについて詳しく知りたい・比較したいという場合は下記の記事を参考にしてください。

参考:【2019年最新】不動産一括査定50サイトをジャンル別に比較!