土地や住宅を売却する際には、不動産会社に査定を依頼するのが一般的です。しかし、これはあくまでも通常の不動産取引における目安であるため、相続で遺産分割する際の法的効力はありません。
信頼性が高いのは不動産鑑定士による鑑定で、鑑定や文書作成を依頼する場合は費用がかかります。ただし、費用は決して安くないため、予め相場を把握しておくことをおすすめします。
不動産鑑定士について

不動産会社による査定の場合、不動産取引や賃貸に関する知識を習得した宅地建物取引主任者が行う場合がほとんどです。宅地建物取引主任者は国家資格で、不動産会社ならば5人に1人の割合で配置することが法律で義務づけられています。
ただし、多くの業者が不動産流通機構が提供する価格査定マニュアルに基づいた査定を行っており、過去の取引価格などを参考にして査定額が算出されます。
通常の不動産取引の場合は不動産会社による査定が一般的ですが、相続による遺産分割の場合、信頼性が高く、法的効力が強い不動産鑑定士による鑑定が求められます。
宅地建物取引主任者と同様に不動産鑑定士は国家資格の一つで、国土交通省が毎年公表する公示地価の鑑定評価やコンサルティング業務などを行っています。
不動産鑑定士の国家試験は毎年1回の頻度で行われており、一次試験である短答式試験と二次試験である論文式試験をクリアする必要があります。これらの試験にクリアした後、実務修習を経て晴れて不動産鑑定士として登録できる仕組みとなっています。
なお、不動産鑑定士の国家試験は非常に難易度が高く、例年25%前後を推移しています。近年は合格率が上昇傾向にあると言われているものの、2018年度の合格率は33.4%となっています。
このように高い難易度をクリアして登録された不動産鑑定士は、不動産の価値を鑑定する専門家として全国に約8,000人が活躍しています。不動産鑑定士は不動産鑑定事務所に所属している場合が多く、地元の事務所を通じて依頼すると良いでしょう。
日本不動産鑑定士協会連合会の会員になっている不動産鑑定士の場合は、公式サイトの検索ツールを用いて該当エリアの不動産鑑定士を調べられます。
参考:公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 会員検索
不動産鑑定士による鑑定はどのような時に必要となるのか

不動産鑑定士による鑑定は、相続で不動産を遺産分割しなければならなくなった場合に有効です。その他は、以下のような目的で不動産鑑定士による鑑定が必要となります。
- 不動産を賃貸借する場合
- 不動産を担保にして資金を借り入れる場合
- 不動産の資産評価が必要な場合
- 不動産の売買や交換する場合
- 権利関係が複雑な不動産の場合
不動産鑑定士による鑑定を受けると、適正価格を把握できるだけでなく、相続の際に公平な遺産分割が実現できます。また、不動産に関する裁判や納税においては、不動産鑑定士による鑑定が用いられています。
企業が不動産を売買する際や地代の分析にも利用されており、税理士や弁護士が不動産鑑定士による鑑定を利用するケースもあります。私たちの生活により身近なものとしては、毎年3月頃に国土交通省が公表する公示地価にも不動産鑑定士が関わっています。
公示地価では、全国に設置された標準地の評価や各都道府県の地価調査などが不動産鑑定士によって行われています。
不動産鑑定にかかる費用の相場

不動産を売却する際には不動産会社に査定を依頼しますが、費用はかからないのが一般的です。一方で不動産鑑定士による鑑定の場合、決して安いとは言えない費用が発生します。
鑑定評価額と不動産の種類によって異なる
不動産鑑定士による鑑定では、不動産の鑑定評価額が算出されます。
鑑定評価額は、以下のように不動産の種類と鑑定評価額によって費用が異なります。なお、鑑定評価額は全て5,000万円以下の場合を表に示しています。
不動産の種類 | 費用 |
更地 | 20万円前後~30万円程度 |
建物+土地 | 25万円前後~50万円程度 |
宅地見込地の所有権 | 25万円前後~60万円程度 |
農地・林地の所有権及び地代 | 35万円前後~70万円程度 |
この表を見ると、更地よりも建物が建てられている土地の方が費用が高く、農地や林地では費用が高額であることがわかります。また、どの種類でも鑑定評価額が高くなるほど費用も高くなる傾向にあります。
価格調査報告書もしくは意見書であればリーズナブル
不動産鑑定士による鑑定を依頼する場合、物件種別や鑑定評価額によって費用は異なりますが、20万円前後から70万円前後と高額です。しかし、価格調査報告書もしくは意見書のみを依頼する場合、比較的リーズナブルな費用が設定されています。
不動産鑑定士による鑑定では、原則として不動産鑑定評価基準に則って行われます。これは不動産鑑定士による鑑定の指標となっているもので、不動産の鑑定評価に関する法律をベースにして制定されています。
ただし、法的なシーンで利用できないことを前提として、不動産の再評価や大まかな価格を知りたい場合などには価格調査報告書や意見書が作成されます。
これらの書類を作成する際の費用は、不動産鑑定事務所によって異なりますが、1敷地50,000円程度で受けているケースもあります。
不動産鑑定士に鑑定を依頼するメリット・デメリット

不動産評価額が裁判や相続などで利用される場合、不動産鑑定士による鑑定でないと効力はありません。しかし、費用が高額など、デメリットもあるのが現状です。
【メリット】所有している不動産の精密な適正価格を知れる
不動産鑑定士による鑑定は、不動産の鑑定評価に関する法律をベースにした不動産鑑定評価基準に則って行われます。そのため、不動産会社による査定よりも精密な適正価格を把握できることがメリットの一つです。
不動産会社による査定は実際に売却できる価格が査定額として提示されます。しかし、業者の言いなりで売り出し価格を下げたり、買い手に値下げ交渉を求められ、相場よりも安い価格で売却してしまうといったケースも少なくありません。
ただし、不動産鑑定士による鑑定は周囲の意見を排除した精密な適正価格だと言えますが、買い手が現れなければ取引は成立しないため、一般的な不動産取引で有効であるかは考慮しなければなりません。
【デメリット】高額な鑑定費用がかかる
不動産会社による査定は、無料で行われる場合がほとんどです。一方の不動産鑑定士による鑑定は、前述したように高額な費用がかかることがデメリットだと言えるでしょう。
また、不動産会社による査定の場合、査定額を比較するために複数社に依頼することが望ましいとされていますが、無料なので躊躇することはないでしょう。
しかし、不動産鑑定士による鑑定の場合、一社に依頼しても費用が高額なため、複数社に依頼しにくいのが現状です。
ただし、費用の見積もりは無料で行われている場合がほとんどであるため、見積もりは複数社に依頼することをおすすめします。
不動産価値・適正価格を調べたいならまず一括査定サイトを利用しよう

所有している不動産の価値や適正価格を知りたい場合、まずは無料の一括査定サイトの利用をおすすめします。一括査定サイトを利用すると、以下のようなメリットがあります。
【ポイント1】無料で査定ができ、不動産の価値の目安がわかる
一括査定サイトを利用するメリットの一つに、無料で査定を依頼できることが挙げられます。不動産鑑定士に依頼すると高額な費用がかかりますが、一括査定サイトは無料なので費用を気にする必要はありません。
また、不動産会社による査定では過去の取引に基づいて査定額が算出されるため、不動産の価値の目安がわかりやすいと言えるでしょう。
【ポイント2】査定結果がすぐに知れる
一括査定サイトは数多く存在しますが、ほとんどのサイトでは査定結果がスピーディーに報告されます。サイトによってスピードは異なりますが、45秒や60秒などの驚くほどのスピーディーさが一括査定サイトの特徴の一つです。
某不動産会社では、業者を訪れて査定を依頼する場合、査定額が算出されるまでに1時間程度かかります。これと比較しても一括査定サイトによる査定結果はスピーディで、インターネット環境さえあればどこからでも依頼できます。
【ポイント3】複数の不動産会社に査定依頼が可能
不動産の価値や適正価格を知りたい場合、できるだけ複数社に査定を依頼し、提示された査定額を比較することが大切です。多くの一括査定サイトでは、一度で複数社に査定を依頼できます。
さらに、一括査定サイトでは非常に多くの業者と提携しており、自分で査定を依頼する業者を選べることもメリットの一つです。
不動産鑑定の費用は鑑定業者によっても違いがある

不動産鑑定士による鑑定はより精密な適正価格であるものの、費用が高額であることが難点です。また、不動産鑑定事務所によっても費用が異なり、主に3つの費用体系から採用されています。
鑑定評価の報酬は原則的には自由に設定可能
不動産鑑定士による鑑定費用は、法律で明確に規定されていないのが現状です。原則的には不動産鑑定事務所によって料金を自由に設定できるため、業者によって料金が異なります。
ただし、多くの業者では不動産鑑定報酬基準というガイドラインに沿って料金設定しています。また、業者が乱立して競争が激しい都市部よりも、競争の少ない地方の業者の方が高額になりやすい傾向にあります。
費用体形を分類すると3通りある
不動産鑑定士による鑑定費用は、主に以下のような3つの費用形態から採用している場合がほとんどです。
多くの鑑定業者が採用している「報酬基準型」
多くの業者では、物件種別ごとの鑑定報酬額表に合わせて料金を設定する「報酬基準型」を採用しています。これは鑑定評価額に応じて料金が変動する仕組みとなっており、基準に大体近いことが特徴です。
作業量によって報酬額が上乗せされる「積み上げ型」
鑑定する物件種別や参考資料の有無によって、不動産鑑定士の作業量は異なります。作業量は、複雑な案件や土地の広さによって多くなるのが一般的です。このように作業量に応じて料金が上乗せされる費用体系は「積み上げ型」と呼ばれていますが、基準となる表などはありません。
物件ごとの違いがない「定額型」
報酬基準型では物件種別ごとの鑑定報酬額表に合わせて料金が設定されますが、物件種別によっては高額になりがちです。しかし、物件種別に関わらず料金が一律の「定額型」という費用体系があり、利用者にはわかりやすい仕組みだと言えるでしょう。
ただし、採用している業者はほとんどなく、採用している場合は手抜き業者の可能性があるので注意が必要です。
鑑定費用を左右する要因
不動産鑑定士による鑑定費用は、鑑定評価額や物件種別によって左右される場合があります。
対象不動産の鑑定評価額
多くの業者が採用している物件種別ごとの鑑定報酬額表に合わせて料金を設定する「報酬基準型」の場合、対象物件の鑑定評価額が高いほど鑑定費用も高くなる傾向にあります。
その理由としては、鑑定評価額が高い物件の場合、責任の度合いがより高くなることが挙げられます。そのため、鑑定評価額が高い物件は鑑定費用も高くせざるを得ないのが現状です。
不動産の種類
不動産には、更地のみの場合と土地と建物といった物件種別の他に、宅地または建物の所有権といった「類型」という区分があります。
この類型によっても鑑定費用が異なり、作業量も異なります。宅地または建物の所有権の鑑定よりも宅地の借地権の鑑定の方が複雑で、作業量が多い傾向にあります。
不動産鑑定士に鑑定を依頼する際の必要書類

不動産鑑定士に鑑定を依頼する場合、数多くの書類を準備しなければなりません。また、より鑑定をスムーズに進めるためには、事前にきちんと書類を準備することが大切です。
以下の表では、不動産鑑定士に鑑定を依頼する際に必要な書類についてまとめています。
書類名 | 内容 | 取得場所 | 取得費用 |
納税通知書 | 不動産の所有者に対して毎年送付される書類で、固定資産税と都市計画税の税額が記されています。 | 通常の場合、毎年6月頃送付されます。再発行する場合、各自治体の税事務所で申請すれば発行されます。 | 毎年送付される際には無料ですが、再発行の場合は数百円程度の手数料がかかります。なお、自治体によって費用が異なります。
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全部事項証明書 | 登記簿謄本とも呼ばれており、不動産に関する情報が全て記されています。 | 法務局の窓口にて請求できますが、近年では法務局のサイトにてオンラインでも請求できます。 | 窓口での申請では、手数料として600円かかります。オンラインの場合、郵送では500円、法務局の窓口で受け取る場合は480円です。 |
住宅地図 | 不動産の場所が記されている書類で、住居表示が実施されているエリアでは住居表示が記されています。 | 地図会社などのサイトからダウンロードできます。 | 大手地図会社の場合、1枚525円となっています。 |
公図 | 住宅地図とは異なり、土地の位置や形状が示されている書類です。 | 法務局の窓口にて請求できますが、近年では法務局のサイトにてオンラインでも請求できます。 | 窓口での申請では、手数料として450円かかります。オンラインの場合、郵送では450円、法務局の窓口で受け取る場合は430円です。 |
建物図面・各階平面図 | 建物がある場合に必要な書類で、建物の図面や各階の平面図が記されています。 | 法務局の窓口にて請求できますが、近年では法務局のサイトにてオンラインでも請求できます。 | 窓口での申請では、手数料として450円かかります。オンラインの場合、郵送では450円、法務局の窓口で受け取る場合は430円です。 |
道路台帳 | 土地に面している道路が公道か私道かを確認するための書類です。 | 各自治体の窓口で請求できます。 | 自治体によって費用は異なりますが、1枚につき300円程度です。 |
上水道配管図 | 上水道管の配置を示している図面です。 | 多くの自治体では、水道局の公式サイトで交付・閲覧できます。 | 水道局によって異なりますが、東京都水道局の場合、抄本の交付1件につき400円、閲覧1回につき300円かかります。 |
下水道台帳 | 下水道の整備状況を確認するための図面です。 | 多くの自治体では、水道局の公式サイトで交付・閲覧できます。 | 水道局によって異なりますが、東京都水道局の場合、無料で閲覧できます。 |
ガス配管図 | 都市ガスの配置状況を示した図面です。 | 各ガス会社で請求できます。 | ガス会社によって異なりますが、大手ガス会社の場合公式サイトから無料で取得できます。 |
このように不動産鑑定士に鑑定を依頼する際には、数多くの書類を準備する必要があります。
また、窓口が遠方の場合や郵送で請求する場合、数日間の期間を要するため、早目に準備することをおすすめします。
おすすめの一括査定サイト3選
サイト名 | 利用者数 | 対象エリア | 提携会社数 | 同時依頼数 |
イエウール | 1,000万人 | 全国 | 1,700社 | 6件 |
イエイ | 400万人以上 | 全国 | 1,700社以上 | 6件 |
リビンマッチ | 440万人 | 全国 | 1,400社 | 6件 |
イエウール:全国1,700社以上に対応
地方・地域密着型の中小規模不動産業者にも対応しているので、都市部以外に所在しているマンションや一戸建てなどの不動産を売却したい人におすすめです。
利用者数 | 1,000万人 |
対象エリア | 全国 |
提携会社数 | 1,700社 |
同時依頼数 | 6社 |
取引件数 | 非公開 |
顧客満足度 | 98% |
運営会社 | 株式会社Speee (Speee, Inc.) |
サイト内では一戸建てや土地など、物件の種類別に売却手順の説明も掲載されています。しつこい勧誘があったなど、評判の悪い不動産会社は登録から外されているので安心です。
イエイ:お断り代行サービスを提供
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利用者数 | 400万人以上 |
対象エリア | 全国 |
提携会社数 | 1,700社 |
同時依頼数 | 6件 |
取引件数 | 1,000件以上 |
顧客満足度 | 97% |
運営会社 | セカイエ株式会社 |
都心部だけでなく、地方の物件を売却したい人にもおすすめです。また、査定を依頼した不動産会社からの営業連絡を断りたい際に、代わりに断ってくれる「お断り代行」サービスがあるため、営業電話を断りにくい人におすすめです。
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利用者数 | 440万人 |
対象エリア | 全国 |
提携会社数 | 1,400社 |
同時依頼数 | 6件 |
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顧客満足度 | 98% |
運営会社 | リビン・テクノロジーズ株式会社 |
全国展開しているような大手の不動産業者ではなく、 どちらかと言えば地域に密着した中小規模の不動産会社の登録が多いので、相続などによる地方の不動産の売却を考えている人におすすめです。
不動産鑑定の内容や費用を把握して目的に応じた用途を整理してみよう

不動産鑑定士に鑑定を依頼すると、より精密な適正価格を把握できる一方で、高額な費用がかかります。
相続による遺産分割や裁判で不動産の評価額が必要な場合は、法的効力の強い不動産鑑定士による鑑定評価額が求められます。
しかし、大まかな価格を知りたい場合は一括査定サイトを活用することで、複数社の査定額が取得できるので非常に便利です。
そのため、不動産を活用する目的に応じて、一括査定サイトと不動産鑑定士による鑑定を使い分けましょう。
また、一括査定サイトについて詳しく知りたい・比較したいという場合は下記の記事を参考にしてください。
参考:【2019年最新】不動産一括査定50サイトをジャンル別に比較!